生涯
大野林火は1904年（明治37年）3月25日、神奈川県横浜市に生まれた。本名は大野正である。旧制県立横浜第一中学校、旧制第四高等学校を経て、1927年（昭和2年）に東京帝國大学経済学部を卒業した。
大学卒業後は日本光機工業に入社した。1930年（昭和5年）に会社を辞めて神奈川県立商工実習学校（現在の神奈川県立商工高等学校）教諭となった。当時の教え子に、後に高弟となる宮津昭彦がいる。1948年（昭和23年）、教職を辞し俳句一筋の生活となった。
1964年（昭和39年）、第13回横浜文化賞を受賞した。1969年（昭和44年）、第三回蛇笏賞を「潺潺集」他により受賞した。1973年（昭和48年）、第22回神奈川文化賞を受賞した。1974年（昭和49年）、愛媛俳壇選者となった。1978年（昭和53年）、俳人協会会長に就任した。1980年（昭和55年）、朝日俳壇選者となった。同年、俳人協会訪中団団長を務め、日中文化交流にも力を尽くした。
1982年（昭和57年）8月21日に死去した。辞世の句は「萩明り師のふところにゐるごとく」である。
俳句歴
中学時代より鈴木三重吉や佐藤春夫の抒情詩に傾倒した。俳句は中学時代の1920年（大正9年）、親友の荻野清（のち俳文学者となる）の父から手ほどきを受けた。1921年（大正10年）、荻野の勧めをうけて「石楠」に入会し、臼田亞浪に師事した。四高時代に臼田亞浪の門に入り、「石楠」に俳句、評論を発表し、早くから注目をあびた。
1939年（昭和14年）、句集「海門」を上梓し、本格的に俳人としての地位を築いた。三十代にして作家としての声価を確立した。この頃より水原秋櫻子や加藤楸邨らとも積極的に交流を行った。1941年（昭和16年）には「現代の秀句」を刊行した。
1946年（昭和21年）、「濱」を創刊し、主宰となった。同年、「俳句研究」「俳句の国」の編集に携わった。1953年（昭和28年）より角川書店「俳句」編集長を務めた（同年11月号から1956年12月号まで）。1950年代には「俳句研究」「俳句」など総合誌の編集長をつとめ、大きな業績を残した。1956年（昭和31年）、横浜俳話会発足に参加した（発起人のひとり。のちに幹事長）。
その他の特記事項
大野林火の作風は、清新な叙情性を持つ句で知られた。初期と後期では作風に多少の違いはみられるが、繊細な感覚による豊かな叙情性は一貫した。師である臼田亞浪の系譜を引き、自然を写実的に詠んでいるのが特徴である。自然に対して繊細な感覚による豊かな叙情性を持つ俳句として評価されている。
林火は優れた指導者でもあり、主宰誌「濱」からは野沢節子や村越化石など多数の著名俳人を輩出した。また草津市の療養所栗生楽泉園でハンセン病患者の句会を指導し、村越化石を見出した点でも評価される。
句集には「海門」（1939年）、「冬青集」（1940年）、「早桃 自選句集」（1946年）、「冬雁」（1948年）、「白幡南町」（1958年）、「雪華」（1965年）、「自選自解大野林火句集」（1968年）、「潺潺集 句集」（1968年）、「飛花集 句集」（1974年）、「方円集 句集」（1979年）、「林火一千句」（1980年）、「大野林火全句集」（1983年）などがある。
著書には「現代俳句読本」（1940年）、「現代の秀句 鑑賞と作家」（1941年）、「高浜虚子」（1944年）、「虚子秀句鑑賞」（1959年）、「近代俳句の鑑賞と批評」（1967年）、「春の俳句 俳句鑑賞歳時記」（1973年）、「行雲流水 私の俳句歳時記」（1979年）、「戦後秀句」などがある。1993年から1994年にかけて「大野林火全集」全8巻が梅里書房より刊行された。
横浜市の港の見える丘公園に林火の歌碑が設置されている。